中堅・中小企業のM&A時の法務デューデリジェンスについて

 おかげさまで、当事務所開設から無事に6ヶ月が経過いたしました。
 開設に際しましては、会議室からあふれるほどの胡蝶蘭などのお心遣いを賜りました。
 
 また、当事務所開設直後から東京方面を中心に立て続けに3件の法務デューデリジェンス業務のご依頼をいただくなど、事務所経営としても多忙な6ヶ月を過ごさせていただきました。
 皆様のご厚情に心から感謝申し上げます。

 さて、「法務デューデリジェンス」という業務は、「法務監査」「法務デューディリジェンス」という表現をされることもありますが、その用語をお聞きになられても具体的なイメージを持つことができない経営者の方々も多いように思われます。
 そこで今回は、当事務所開設直後にもご依頼いただいた、M&A時の法務デューデリジェンス業務の一般的な内容について情報共有させていただきたいと思います。

 そして、現在現在進行中である上場支援時の法務デューディリジェンス業務についても、近い将来、上場支援会社が無事に上場された後に、(会社名など守秘義務の範囲を超える情報は公開できませんが)改めて情報共有させていただきたいと思います。

1 M&Aの場面における法務デューデリジェンスの意義
 一般的には、買い手側が、当該M&Aを実行するかどうかという経営判断の前提として自社の費用で行います(経験豊富な大手M&A仲介会社に依頼される場合でも、法務デューデリジェンスを実施するかどうかを含めて自社判断になります)。
 並行して、財務・税務デューディリジェンス、事業デューディリジェンス等が行われることが多いです。
 対象会社は買収すべき会社か、買収する場合の買収金額はいくらに設定すべきか、買収の障害となる事実の有無、重大な偶発債務・簿外債務の存在の可能性などの買収後の経営に影響を与える事実の有無等について、法律面から判断材料や分析結果を提供する業務です。
 なお、売り手側が、近い将来のM&Aの成立や事業承継をより確実にするための自社の事前チェックとして実施する場合もありますが、概要は同様です。

2 法務デューデリジェンスの対象
 秘密保持契約書締結後に買収監査依頼書等に基づいて、又は、基本合意書において取引の条件・日程などの概要、独占交渉権、秘密保持の条項、有効期間等とともに、デューデリジェンスの協力義務を規定した上で実施して、最終契約締結に臨むことが多いです。
 監査事項は、概ね以下のような内容になります(監査対象を限定することもあります)。
 ①株主構成(株主名簿と株式譲渡の有効性判断、真の株主構成や株主間契約の把握等)
 ②関係会社(グループ会社全体像、関係会社株主や不適切な取引の把握)
 ③契約関係(取引継続性、チェンジオブコントロール条項、競業禁止・独占販売条項等、
  債務内容の把握)
 ④労務関係(未払の賃金・退職金・社会保険料、役員・キーパーソンや労働組合等の把握
 ⑤事業用資産関係(事業継続に不可欠な資産の把握、M&A後の継続使用等の可否確認)
 ⑥ファイナンス(融資契約、返済とリスケ、期限の利益喪失事由、コベナンツ、担保確認
 ⑦訴訟等紛争(簿外債権債務、クレームや内在リスク、PL保険契約等内容の把握)
 ⑧知的財産(知財の保有及び重要性、管理体制及び状況、関連契約、潜在債務等の確認)
 ⑨許認可(許認可取得及び見通し状況、取得漏れや有効期限、業法違反の有無等の確認)
 ⑩コンプライアンス(違反事実の把握、コンプライアンス体制の構築運営状況の確認)
 ⑪環境(環境問題、廃棄物処理関連の確認)
 ⑫その他M&Aに影響を与えるほど重要な事項に関する株主総会や取締役会の決議内容

 M&Aによる事業譲渡(承継)を買い手側が検討する場合の必要事項としては、M&A契約を法的に有効に行う権限が対象企業の代表取締役等の契約者当事者に存在するなどを含めて適法に対象事業や法人支配権が移転できること(上記①)にありますが、法的に有効なM&A契約であっても、事業継続のために必須である許認可、契約や資産を失ったり(上記③⑤⑥⑨)、簿外債務が存在していて買い手が大きな損失を被ったり(上記④⑦)するリスクがあるため、しっかりと法務デューディリジェンスを行うことで法務リスク低減を実現することが肝要です。
 また、売り手側としては、法務デューディリジェンスが実行される前に可能な限りコンプライアンス(法令順守)体制を整備することが望ましいです。M&Aにおいては、買い手側が上場企業となる可能性があるばかりか、買い手側が非上場企業であっても、法律を遵守した経営をしていることが法務デューディリジェンスの結果として高評価を得て、M&A成立につながる可能性が高まるという意味があります(他方、M&A時の法務デューディリジェンスの結果が芳しくない場合には、M&A自体の中止やスキーム変更を余儀なくされるリスクも生じかねません)。

 実は、当事務所設立直後にご依頼いただいたM&Aは、大手M&A仲介会社を介した医療法人グループのM&Aであったため、上記①ないし⑫のような一般的な株式会社を想定した監査事項とは異なる点も多いのですが、譲渡対象は持分有り医療法人であったため、概ね同様と考えていただいて結構です。
 なお、持ち分有り医療法人の場合は、①の株主は持分権者に、②の関係会社はMS法人に、⑫の株主総会は社員総会、取締役会は理事会に、それぞれ読み替えることになり、持ち分無し医療法人の場合は若干スキームが異なります。

 当事務所としても、昨今は、「会社の健康診断」として、M&A時と同様の法務デューデリジェンス業務のご依頼を受けることや、親族・従業員をも含む事業承継のスキームの検討段階でのご依頼を受けることもあり、企業内における紛争予防(予防法務)という意義もあるものと考えております。
 また、大規模ではない中小企業や医療法人、クリニック、薬局などの事業承継としてM&Aを検討されている方々もいらっしゃると思いますが、事案によっては、そもそもデューデリジェンスを実施しない(実施する必要も無い)場合もあります。
 そのような場合には、例えば最低価格2500万円といった大手M&A仲介会社の手数料を支払う必要性が小さくなるため、当事務所が事業譲渡契約書等を作成したり、提携会社の協力を得たりしながらM&A実行までフォローさせていただいた実績もございます。

 経営者の皆様方には、「M&A時の法務デューディリジェンス」という法律事務所の業務についても、ご承知おき、ご理解いただけましたら幸いです。

     

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