中堅・中小企業の上場支援時の法務デューデリジェンスについて

 早いもので、ご縁をいただいた皆様のおかげさまで当事務所開設から1年が無事に経過いたしました。
 昨年末からは、さらに立て続けに2件、上場大企業との間の事業譲渡型M&Aや新規上場の法務デューデリジェンス業務のご依頼をいただくなど、引き続き企業・法人法務を中心に活動させていただいております。

 さて、前回のコラムにおいて、M&A時の法務デューデリジェンス業務の一般的な内容について情報共有させていただきましたが、今回は上場支援時の法務デューデリジェンス業務について、情報共有させていただきたいと思います。

1 新規上場の場面における法務デューデリジェンスの意義
 新規上場を目指す企業が、証券会社などからの紹介を受け、自社の費用で行います。
新規上場の際には、証券取引所を通じて広く一般の方々から株式を購入していただくことになりますので、新規株主に不測の損害を与えることを防止するため、東京証券取引所等で厳格な上場審査基準が定められております。また、上場後は、決算情報や重要事実を適時に投資家に開示する義務が課され、インサイダー取引の禁止、コーポレートガバナンス・コード、その他金融商品取引法対応等が要請されることとなります。
 そのため非上場企業である間に事実上許容されていた法令違反状態を正す必要が生じ、上場申請に先立ち、上場企業に要請される定款等の内容変更ができているか、その他株式売買の障害となる事実が無いか、各種社内規程が整備され機能しているか、各種法令遵守が実行できているか否か、重大な偶発債務・簿外債務の存在の可能性等について、法律面から判断材料や分析結果を提供し、証券会社等が上場申請時における相当の注意を行ったと評価できる状態を確保するため、弁護士が監査業務を行うことが必要となります。
 一般的には、上場を目指す会社は、証券会社及び監査法人との契約を締結し、監査役監査・内部監査とともに一定期間の会計・税務等監査を実施しながら、法務デューデリジェンスを依頼することになりますが、近年、AI開発企業が循環取引を行って上場後間もなく破綻した問題事例が発生したため、上場審査は以前より厳しくなる傾向にあります。また、新規上場の初期目標とされてきた東京証券取引所のグロース市場において上場維持基準が厳格化されたことも影響して、特定投資家を対象とするTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)への新規上場が以前に増して注目を集めています。

2 法務デューデリジェンスの対象
 監査事項は、概ね以下のような内容になります。
①株主構成(株主名簿と株式譲渡の有効性判断、真の株主構成や株主間契約の把握等)
②定款、株式取扱規程、取締役会規程、株主総会運営規則、監査役監査規程、株主総会・取締役会等の議事録の内容確認を前提とした、株主総会、取締役会、監査役監査、内部監査等の適法性・実効性等の評価
③関係会社(グループ会社や子会社管理、関係会社株主や不適切な取引の把握)
④契約関係(チェンジオブコントロール条項、競業禁止・独占販売条項等、債務内容の把握と適法性・取引継続性の確認)
⑤労務関係(就業規則・各種協定や規程の適法性、賞与や退職金を含む未払賃金の有無)
⑥事業用資産関係(事業に必要な資産に関する関連当事者取引の解消等)
⑦訴訟等紛争(簿外債権債務、クレームや内在リスク、PL保険契約等内容の把握)
⑧知的財産(知財の保有及び重要性、営業秘密管理体制、関連契約、潜在債務等の確認)
⑨許認可(許認可取得及び継続見通し状況、取得漏れや有効期限、業法違反の有無等確認)
⑩コンプライアンス(各種法令違反事実の把握、内部統制システムの構築運営状況の確認)
⑪環境(環境問題、廃棄物処理関連等の確認)
⑫その他新規上場に影響を与える重要な事項

 新規上場に成功しても、事業継続のために必須である許認可、契約や資産を失ったり(上記④⑥⑨)、簿外債務の存在や各種コンプライアンス違反が判明するなどして新規株主が株価の下落等で大きな損失を被ったり(上記⑤⑦⑧⑩⑪⑫)するリスクがあるため、法務デューディリジェンスを経ることで新規上場後の法務リスク低減を実現することが肝要です。

 前回コラムで記載させていただいた、当事務所設立直後から進めていた新規上場支援は無事に成功いたしまして、当事務所代表弁護士も東京証券取引所内での上場セレモニー及び横浜での祝賀会に出席させていただくことができました。
上場時写真
 実は、同会社(tane CREATIVE株式会社、https://tane-creative.co.jp/)の代表取締役社長である榎 崇斗氏は、当事務所代表弁護士が、国家試験最難関といわれた司法試験の受験勉強を共に行っていた同志でもあります。人のご縁の繋がりを大切にしたいという思いで、紹介制で長年弁護士活動を行ってきた当事務所代表弁護士としては本当にありがたい法務デューデリジェンス業務のご依頼であり、非常に嬉しい新規上場の成功体験となりました。
 同社は新潟県佐渡市で創業されたIT企業ですが、地方の活性化という非常に重要な使命を果たしながら、大手企業との取引が増加する中で新規上場によって更なる資金調達を実現し、優秀な人材を採用することによる事業拡大と持続可能な会社経営を目指して経営努力を続けられています。
 サントリー本体やアイリスオーヤマといった著名な非上場企業も日本には存在しており、近年はコーポレートガバナンス・コード等の上場企業に要請される遵守事項の増加への対応や、株主との建設的な対話が難しいなどの理由でMBOにより非上場化される企業も増加しておりますので、資金調達や新規採用が事業継続にとって大きな課題ではない企業においては新規上場という選択を行わないことが合理的である場合も多いかとは存じます。
 ただ、経営者の皆様方が、事業の永続性確保や優秀な人材確保の観点から新規上場を検討される場合には、M&A時の法務デューデリジェンスの他に「新規上場時の法務デューディリジェンス」という法律事務所の業務があることについてもご承知おき、場合によっては上場企業並みのコンプライアンス体制を非上場企業のまま一部取り入れていく戦略法務予防法務の一方策として、ご活用・ご理解いただけましたら幸いです。

     

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